天皇賞(秋)2017 回顧

普通ではないことが起きそうな予感のあった菊花賞並みの極悪馬場をいち早く抜け出してきたのは、本物の古馬一流馬だけであった。

完全に自分のリズムでは走れなかった前半を、もうこの馬場では大外進出が有利とはならないことを悟ったように、最後は本物の道悪巧者・サトノクラウンとの至極の叩き合いへと誘った武豊騎手の判断力は、言わずもがな世界トップクラスであると改めて証明する結果となった。

最後は右へ左へとどう併せるのか考えながら、最後まで王者を追い詰めたミルコとサトノクラウンの闘志も絶賛されるべきところがある。

道悪でこそ、ではないことを示すような追い比べは、しかし、持っている勲章の数の差もあったか。

本物になってもう2年以上のキタサンブラックに対し、昨秋やっとGⅠ馬になったサトノクラウンは、僚馬のドゥラメンテだけではなく、この日素晴らしい出来だったリアルスティールや当然キタサンブラックを追いかける立場にずっとあった馬だ。

衝撃の皐月賞に始まったライバル物語は、人馬一体、よりタフさを高めた人馬同士の一騎打ち。

生き残りという表現とは違う、選ばれ続けた馬の底力が、結果にも反映されたようにもみえた。

だから、やっぱりこの2頭なんだ。

ゴールシーンの壮絶さには、他の16頭にはまだ出番がないという印象も与えるほどの、清々しさがあった。

菊花賞以来末脚不発が続いていたレインボーラインは、雨の高速決着だった宝塚記念も大した見せ場もなく、ゴール前伸びてきただけの5着だったが、終始上位争いに加わっていた根性の走りは、ステイゴールド×フレンチデピュティ×レインボーアンバーという配合の成せる業か。

先週のクリンチャーやポポカテペトルらにも通ずる、特別な適性を秘めていた才能である。

こういう馬、この場面の競馬で勝ち切れないとやはり今後も苦しい。

元より、作戦が限られる馬。

強い馬になるためのレースで、いつもように強い馬を気持ちよく走らせた後にこっそり入線では、体調の良化具合に進境はみられても、成長をしたとはすぐには言えない。

賞金面の課題がまだ残った点でも残念だ。今日も完敗である。

リアルスティールは普通に乗るしかなかったのかもしれないが、本質的に上位勢とはパワーの差があったから、ダービー4着と同じような結果と考えたらいいだろう。

どんなに努力したところで、同期の2頭やドゥラメンテとは、骨格も血統もまるで違う。

マカヒキは頑張った。

最後は外に出して、中団から血統のイメージ通りの走りを見せたソウルスターリングを、最後は執念で差し切った。

しかし、ディープ産駒ということもあるのか、これも見せ場づくりに過ぎない。

着差とかタイムは良馬場ではないので参考にはならないが、根本的な部分で、この手のタフな競馬に対応できるほど中身が充実しているわけではないはずだ。

この5着であり4着について、力があるとするのは、次のレースの選択次第で、意味合いも変化する。JCでは残念ながら、きっと用なしだ。

グレーターロンドンの攻めの競馬や、シャケトラの本質的な道悪への対応力など、しっかりとした体の状態で戦えたなら、もっと違う展開もあっただろうと思わせる期待の穴馬の走りなどが目にもついたのだが、これはもう、格が上位2頭とは違ったというより他はない。

ラストシーズンを迎えたキタサンブラックにとって、昨年はここを回避してJC直行だった点に、やや画竜点睛を欠くといった心持ちもどこかにあったのだろうから、こういう選択は悪いことではない。

また、鞍上には因縁の不良馬場、断然支持の休み明けということで、進行の仕方こそ違うが、一時は凱旋門賞も狙ったという点で、メイショウサムソンと10年前に制したこのレースの勝ちっぷりを思い起こす筆者であった。

あの時は、直線の外の方で謎の側方接触事故が沢山起こった、実に後味の悪いレースであったが、サムソンは涼しい顔をして、人気通りに走った。

その時は、やや仕掛けのタイミングを待って、直線に入ってから伸びてきた。

グイグイ相手を突き放す新境地の競馬。

それと丸被りでは、以後未勝利というタマモクロスとも同じ経過をたどることにもなりかねないが、ここで変わったことをすることも、より難攻不落になるあと2戦に向けては、いいステップだったのではないだろうか。

高速化だけは、どうにか勘弁願いたいというのが、最後の陣営の願いである。