ジャパンカップ2016 回顧

発走する枠の使い方。

馬場に合わせた乗り方。

相手に自由な競馬をさせない技術。

1000M通過61秒台で単騎逃げ。

ムーアはいち早くスローになることを察知したから、とっとと先行ポジションにつけて、どう折り合いをつけていくかという最大のテーマに挑戦する競馬を選択したが、如何せん、逃げているのが春の天皇賞を逃げ切っているキタサンブラックであり、このレースを3度制している武豊である。

ゴールドアクター行け。ルージュバックもいつもよりはずっと前。

しかし、逃げ馬の競馬に持ち込まれては、後続の使える手は限られてしまう。

向こう流しで突つかせなかった時点で、この結果はもう見えていた。

東京2400Mの競馬は、何度となく制している武豊騎手だが、リードホースに乗ることはあっても、本命馬で先行策をとったことはない。

しかし、それがある意味できない馬に乗る機会が増え、分かりやすい良血馬ではないキタサンブラックで、社台系のピカピカの良血馬を後ろに回し、勝負の追い込みを選択したデムーロ騎手のサウンズオブアースに2馬身半差である。

今まで一番強いキタサンブラックの競馬だったのではないだろうか。

同時に、デビュー2戦が関西馬としては異例の東京での連戦だったのに、類まれなレース巧者ぶりを圧勝の連続で一気に注目のダークホースになり、以降も安定した活躍を見せ、ここまでやってきたことは、近年減りつつある王道のGⅠ馬ヒストリーとして大きな箔も付いた。

血統で勝てないことは判っているが、馬体であり、前向きな気性であり、持続力といったものが、同じくレース巧者のゴールドアクターより、常に勝負することに積極的な姿勢で挑むことのできる強みが、フェアなコースである東京2400Mで活きたのではないだろうか。

仕方ない。それもこれも、大勢が武豊の味方ではなくなったからである。

今回のレース内容、優勝インタビューのコメント。いや、スター武豊というより、ギラギラした目つきで勝負することを貪欲に望む挑戦者の姿に見てとれた。

どうだこの野郎。

怖い武豊もまた、見ていて面白い。

凱旋門賞断念である意味、無念の秋天参戦で圧勝したメイショウサムソンを駆った時も、内心、ここでヒーローになることは望んでいないという雰囲気はあったが、言葉はいつも通りにウィットに富んだものであった。

でも、何か違う今回の名手の姿に、変な話、末恐ろしいものを感じた。

イチローが50歳までやるなら、俺は70まで乗る。そんな勢いである。

カリカリしやすい、よく言えば前進気勢のある馬、平たく言えば、ちょっと乗り難しい馬にゴールドアクター&吉田隼人騎手のような判で押したコンビであったり、世界クラスの名手がみんな乗っていたわけだが、何となく、サウンズオブアースやシュヴァルグランというのは、ゴールドアクターやリアルスティールなどよりも、変な癖のないタイプで、強引に競馬をしなければ、得意条件で結果を出せる馬であったように思う。

デムーロ騎手も福永騎手も、何度も乗っている馬であるから、リアルスティールに対する共通のライバル意識もあったにせよ、差してどこまで勝負できるかという、こちらも勝負の一手でまずまずの結果は残せたのではないだろうか。

しかし、どうも最近気配がおかしいディーマジェスティは置いといて、力の出し切れる後傾ラップで、フェアな戦いをしたにもかかわらず、時計は平凡で、スローだから仕方ないけれども、逃げ馬圧勝の流れになってしまった原因は一体何だろう、とも思ったゴールシーンであった。

キタサンブラックをはじめ、多くの馬が力を出したけれども、筆者の期待した3連勝中のトーセンバジル<中団から伸びきれず11着>にも可能性のあったレースだということに、今でも露ほどにも疑いは持っていない。

何せ、怪しい気配の馬が多かったからである。

春天惨敗でミソの付いたゴールドアクターにせよ、三冠レースで選択した手が全て裏目に出たリアルスティール然り。

いつもツル首で、やる気満々の上、マイナス2kg以上にシャープに移したキタサンブラックは、見てくれのいい馬ながら、人気勢では一番いい出来だったが、鞍上は危ないところもあったと匂わす発言をしている。

宝塚記念は武豊騎手でなければ、ペースを第一敗因とする論調が大勢を占めるようなハイペース。

誰もが一発を狙いながら、実際のところ、このレースで自分らしい走りができたのは、結局勝ち馬だけだったのではないのか。

正直、みんながもう少しスタミナがある少し前の時代のジャパンCだったら、武騎手も勝負の一手を打ち、宝塚記念のような先行策をとった可能性がある。

相手を見て戦える強みのある馬ではあったが、騎手の思い通りに、それも危惧された道悪でもないのにこの結果は、少し相手が楽過ぎたとも言えなくはない。

いい頃のJCの魅力には程遠い、普通の競馬によう見えるJCが多すぎるのは残念だ。