スプリンターズステークス2019 回顧
やりたいことができたモズスーパーフレアとミスターメロディ。
出来ることが最近もっと増えたタワーオブロンドン。
実は、人気馬にとって不利なことの多い1枠のダノンスマッシュは差し後れの形。
人気の応えるのは、決まって真ん中らへんの枠の馬。
今も昔も、中山1200の攻略法に変化はあまりない。
差し切ったタワーオブロンドンのパドックを見て驚いた。
減って出てきたのは当然として、あまりにも充実してるのか、楽しそうに走っている画が浮かぶような踊るようなステップを踏んでいたのである。
お陰で、もう1200仕様で行こうと藤沢調教師も腹を据えたのか、その辺の走りたい気持ちはスタートの良さに表れていた。
後手を踏むわけでもなく、ギリギリの中団外から、理想的なスパートで先行勢を呑み込んだ。
みんなが同じ時期にタワーオブロンドンの末脚とダノンスマッシュの決め手は、どちらの方が素晴らしいのかと未来を占ったのは、2年前の阪神と京都だった。
2年して分かったのは、その時使った直線に坂のあるコースとそうでないところとのフィット感が、この日も出た感じ。
ダノンスマッシュは京都や札幌でべらぼうに強かったが、最後の坂でややパワフルさが殺がれる。
キャラの差は距離やレース選択に最初は大差をつけることはなかったが、明けてからは、タワーは広いコースに拘った。
ロードカナロアの道を再び進むべく、NHKマイルC以降はタフな北海道からの復帰で、経験値を蓄えていった。
が、肝心の底力勝負になった時に、動きすぎと差し後れで獲り損ねた大魚は、一見、そういう星の下に生まれたように感じられるだけでなく、動いていく脚に限定されるものがまだあるということだ。
簡単に言うと、最初からモズを見て戦えるダノンとそれはさすがにできないタワーとの差。
柔軟さは時に、大きな障壁を自ら作るジレンマを生み出す。
スプリントのGⅠに、淀みなど道中に存在してはならない。
最後の脚に魅力は感じさせたダノンだが、こういう脚は勝った時に使いたい。
大体の馬が力を発揮したスプリンターズS。
32.8-34.3という前傾ラップは、近年、奇しくも馬場の適正化を図った作りのせいで失われていたものだが、初の1200だったマルターズアポジーも途中までついていけるくらいだから、中山のGⅠとしては、極めて順当な結果を引き出すためのお膳立てだったと言える。
そのマルターズアポジーだが。その33秒を切るか切らないかの純然たる本来のスプリントGⅠにおける正当な前半のラップに見事に対応してしまったがために、理想の捲りはおろか、理想の好位付けとなってしまった。
なってしまった…。
こういう表現がしっくりくる。もっと早くこの路線に乗っていたなら…。
惜しいようで、そうでもないところがあるから、こういう馬は面白い。楽しませてもらったことに感謝である。
不撓不屈の桜花賞馬・レッツゴードンキも、これで実に、9-2-5-5という戦績で、恐らくはラスト中山を完走したことになる。
これら、快速馬の同期には、キタサンブラック・ドゥラメンテら、パンチの利いた優駿がゴロゴロいるわけだが、何故ここまで面白いパフォーマンスができるのか。
02、04クラシック世代も高齢まで活躍した天才が多かったが、この15世代にも同じ何かがあるのだろう。
そういえば、1着がゴーンウェスト系のレイヴンズパス、2着が同系のスペイツタウン、3着は日本でも誇れるように育ったキングマンボ直系のロードカナロアが、それぞれ人気勢の父にあたる。
昨年はキングマンボ系が大活躍したが、いかにもこのレースに向いていそうなミスプロ系は、ちゃっかり3連勝中で4連勝とこれでしたわけだが、その前は、英雄たるロードカナロアの前は何と外国馬ばかり。
その他では、もう古典の記録に入りつつあるトロットスターやヒシアケボノがいるくらい。
上位独占の時は、これまでフォーティナイナーの系統が上位に入っていたが、こうした元からスピード寄りの血筋の馬が、イメージ通りに育ったという記録はない。
いい時代である。同時に、血統の持つ完成のようなものが近づいているのか。
レベルの高い血の組み合わせには、必ずプラスアルファを作る亜流の血が欲しいところだが、ゴーンウェスト系の2頭にはそういう血がある。
発展性の面でも、今まで日本に合わなかったこの系統が、スピードの血を拡散させることになるのかもしれない。