NHKマイルカップ2016 回顧
パドック気配も返し馬も、ボチボチ。
それは、上位に来た人気の2頭のこと。
それでも、1:32.8というマイルドラマを紡ぎ出したのは、間違いなくこの2頭である。
素直に、9月の時点でクラシック候補に名乗りを上げた彼女たちの才能の素晴らしさを改めて引き出した調教師の技術と馬自身の底知れぬポテンシャルを称賛したい。
並の2歳Sウイナーでは、この東京マイルで破天荒な策は通用しない。
時計にその価値を感じる。
このレースを勝ったメジャーエンブレムは、ルメールマジックがあろうとなかろうと、阪神JFくらいなら楽に勝てる馬だった。
クイーンCを挟んで桜花賞というところまでは、JF快勝で既定路線。
ただ、運命のいたずらなのか、関東馬に桜花賞は未だ高嶺の花なのか、古典の記録まで引き合いに出されて、そんなところを勝ったのなら、もう後は用なしだよ、などと穴党に唆されるように、何か憑りつかれる様に普通の競馬をしてしまった桜花賞のメジャーエンブレムとルメールは、終始自慢の高性能エンジンを見せびらかせるだけで、ついに全開にすることなく4着と敗れる。
シゲルノコギリザメという、展開上、最も気にしないといけない馬を相手にした今回競馬は、皆が想定したように、厳しいマークの中の逃走劇となった。
が、父の妹ダイワスカーレットがそうであったように、その同期のウオッカもそう。
相手が自分を狙い撃ちしようというとき、相手が自分より格上のように映る力関係の時ほど、自分らしさがより輝きを放って、十二分に引き出される不思議な性質が、このメジャーエンブレムにもあったのだ。
そこまでは、阪神JFまでの結果で想定される範囲のパフォーマンス。
それ以上のものは、すべてクイーンCで出してしまった。
実は、そのことがすごいと思える理由なのかもしれない。
新潟2歳Sを勝った時は、一体どこまで飛んでいくのだろうと思われていたロードクエスト。
ホープフルSもスプリングSも大して負けていないのに、人気を背負っていたから、やたらと印象が悪い。
皐月賞は展開が思った以上に速くなったのに、ホープフルSのような捲りを繰り出し、最後は伸びあぐねて8着。
追い込み馬だからこそ配された池添騎手だから、気分よく走らせてあげたい実績のあるマイル戦で、こちらも皆が思った通りの競馬に徹することができた。
相手は、ハイペースを作る馬。
脚質こそ真逆ではあるが、彼らは、本質的な部分で繋がっていたのではないだろうか。
晩夏のマイル戦で、お互い、未来の飛躍を確信した以外にも、非なるようで似たものがあった。
「テンの3F34.3秒」
「終いの3F33.8秒」
結果は、ロードクエストがメジャーエンブレムに0.1秒差劣るのだったが、結局、2頭とも自分で競馬を作っているということであろう。
メジャーエンブレムは見た目にわかりやすく、新潟2歳Sで誰よりも自由に位置をとって、最後の直線は誰よりもタフな馬場を選択し、4馬身突き放したロードクエスト。
考えてみれば、いくらか晩生の血統でありながら、2歳Sで歴史的勝利を収めた後、どこかで不発に終わるのは当然のことなのだ。
反動が出た結果、期待した舞台では結果を出せず、良くとって、前走と平行線の、メジャーの場合は、絞って中距離仕様にしつつ、地元のレースで負けられないことで攻めた分の体調落ちがありながら、底力の東京マイルでは、自分を取り戻して、本来の競馬をできたのである。
マイルという距離で、かなりの能力を秘めたライバルはほかにもいただろうが、即この場でその能力を出せる馬は、他にはいなかった。
字面は人気通りだが、そこまで信用していないファン、関係者は多かった。
しかし、相手抜けの筆者が言っても説得力に欠けるが、これは当然の結果なのだ。
クラシック戦でない以上、レースの質は、人気馬の走り方如何でどうにでもなってしまう。
唯一、このレースの残念だったところを挙げれば、このトップ2にどのように挑んでいったのか謎の残るティソーナのスタートミスだろう。
挽回しようという騎手の意思に対し、馬は直線を走るように猛然と押し上げていき、掛かってしまった。
普通に外を回しても…、それは結果論か。