安田記念2017 回顧

昨年の1着馬が今年も正攻法で押し切ろうとしたところ、今年こその末脚勝負で力を発揮したサトノアラジン。

決して甘くはない流れに、アンビシャスの後方待機策が正しいように映ったのは、1:31.5という決着タイムを見た瞬間だった。

モーリスを相手に戦った馬。再三の不利や、勝てないことを揶揄されてきた馬。

もう一頭、ステファノスという馬も絶好のポジションから競馬できたが、想定された以上の展開と勝ちタイムで、最後は力尽きた。

素直にここは、勝ったサトノアラジンとかつて史上最高の2、3歳スピードスターとなったロゴタイプの復元力を称賛したい。

忘れた頃にやってくる。そういう競馬ができる馬には、いつかGⅠの勝ち運が巡ってくる。

思えば、ルメールでもGⅠを勝てなかったサトノアラジン。

川田騎手の男らしい追いっぷりが今年は活かせた。

速い流れに向かない馬とは思っていたが、それは正しかったのだけれども…、ということだろう。

昨年、マイルGⅠに全く繋がらない京王杯SCとスワンSを両獲りした稀有な存在であるサトノアラジンは、特に、マイルCSでの酷い仕打ちを散々な目に遭ったと変にフォローしてもらった影響か、その後はこの馬にはしては珍しく、着差ほどは惜しくない内容の競馬に終始していた。

終わってしまったわけではないだろうが、かつてブラックホークがここで見放されたことを逆手に取る後方待機をした横山騎手同様、仕掛けをいつもの通りに遅らせてから追い上げ開始するのには、この混戦での外枠からの競馬は、昨年はごちゃつきやすい真ん中より内の枠を引き続けた時とは、まるで違う幸運であった。

おかげで、前走大きく人気を裏切ったことを特に哀れまれることもなく、この馬にしては低評価の12.6倍でのレース参戦も、あまり騎手以外に目立った存在のいなかったここでは、勝負手を打ちやすかったはずだ。

東京で人気を競いながらイスラボニータに力負けしたのが、若き日のサトノアラジンだった。

時にダービー馬より高く評価されていたこの勝ち味に遅いだけの才能は、ある意味、能力評価が正しくなされたときに、そのポテンシャルの高さを刹那的でも、極めて爆発的に繰り出すことができる馬に育った。

知ってはいたが、信じられなかった。

多くのファンの嘆きはそのまま、勝てない時期のサトノアラジンと池江厩舎のスタッフの心情なのである。

決め手を活かすようになったのは、ドゥラメンテが弾けた皐月賞の直後の中山1600戦だった。

ルメール騎手が通年免許を獲得しながら、ちょっとした粗相でデビューが遅れた後、それを取り戻そうとしていた頃初めて乗ったのが、その春興Sなのである。

その時の決め手は、上がり3F32.7秒という、中山レコードとも言われた破壊的末脚だった。

それが年に一度繰り出せる馬になった。

例によって、勝ち味の遅さを克服できなかった彼が、今度は初めて乗った今回のパートナー川田騎手共に、踊るように差し切った昨年の京王杯SCは、勝ちタイムの1:19.6より、最後に繰り出した32.4秒を高く評価されたのだった。

荒れ馬場で持ち味も活かせなかった本番を経て、前記の不遇のレースを経て、また春に復活した。

ロゴタイプも似たような伏線があった。

中山記念で好走できるようになってから、今度は安田記念で通用する状態にまで戻すことができた。

あの良かった時代とその後に経験した屈辱の年月というコントラスト。

いつもいいところまで行くけれども…、という、イスラボニータ、エアスピネル、ステファノスなどとは、根本的なキャラクターが違うのだ。

だから、信じた形で勝負できる舞台を欲していたのである。

そんなことは、ショウワモダンが6歳春に輝いた7年前の出来事でも我々は学んでいたはずなのに、今回またしても、であった。

しかし、珍しく雨に降られた京王杯SCではなかったら、今年こそ里見オーナーがダービー制覇を果たしていたら、こんなことは起きなかったのかもしれない。

持続力勝負向きの馬と徹底直線勝負型の馬とのガチンコ勝負は、お互いの調子もそうだが、実績上位馬の苦手なゾーンでの争いにならないと見せ場を作れないという、ある種のジレンマが、この安田記念には見え隠れする。

サトノアラジンと川田君よ。

参戦レースの残り数が少ないからこそ、自分の型は崩さないようにしないといけない。