2015年有馬記念 回顧
テンが速くなることはないにしても、一瞬でもスタート直後にゴールドアクターが先頭に立てたことは大きかった。
あれだけ強い強いと言っていた馬に、誰も注目しなかったかのような10倍台中盤のオッズ。
思えば、11月になってからは、芝路線の主役は4歳馬だった。
誰にも止められない領域に入った時のロベルト系の底力は、彼の日この舞台で復活勝利を挙げた祖父グラスワンダー譲りの他を寄せ付けない勝負強さとして現れた。
いや、どんなに相手が強く、たとえ接近されたとしても、最後は絶対に勝つ。
豪華メンバーが揃った7年前のジャパンCで、ダービー馬3頭をまとめて封じたのは、その日初めてレースに乗るM.デムーロだった。
土曜メインはうまいったミルコ。
しかし、誰が乗っても2着のサウンズオブアースなのだから、これは仕方ない。
JCの悔しさは返せたが、菊で3馬身半差つけて先着した相手に完璧に今回は封じ込められてしまい…。
またこの手の役者が登場した。
ゴールドアクターを千両役者にしたのは、もう一頭の存在が大きい。
テン乗りの横山典弘騎手は、3歳世代の先行馬の実力を完全に把握していた。
リアファルはもちろんのこと、結果としてドゥラメンテの才能を完全に引き出すような春二冠のラビット役の完遂が、この出来のキタサンブラックならば、少し気負い気味の気配なのであれば、あわよくばを狙うために、そして、
「ゴールドシップの苦手とする展開に持ち込むため」
有馬記念としては、比較的紛れの小さい流れを作ったのだ。
粘り込んでの3着。
本来の形よりは積極策だが、リアファルは完全にリズムを崩し、古馬の実績馬に無駄脚を使わせての逃げなら、誰もケチはつけられない。
本来ならば、菊花賞ほどでないにせよ、逃げ馬を見る好位付けの方がいいのだが、そこは相手がいること。
この相手くらいは正攻法で負かせないと、という感じのゴールドアクターとサウンズオブアースに見事に立ち回れてしまった分の0.1秒差負けであった。
それだけ、ゴールドアクターは完璧だったのだ。
むしろ、アルゼンチン共和国杯でメイショウカドマツに大分いじめられた時の方が、よっぽど厳しい競馬だったはずだ。
昨秋の疲れを癒し、既定路線の1000万クラスからの再スタートを連戦連勝。
何か、昨年の菊花賞でできなかったことを、より成長した有馬記念で全てやりきったようなレースぶりだった。
牝系が特に渋いゴールドアクターの血統表は、よくよく見ていると、祖父のグラスワンダーの中に入っているターンートゥ、ノーザンダンサー、レイズアネイティヴなどの有用な血が、そっくりそのまま分岐した母方の別系統の中に含まれ、絶妙な関係性を作り、全体的にバランスをとっている。
それにセダンやトサミドリも入っているから、深く掘り下げるまでもなく、高速決着の減った最近の中山で行われる有馬記念では、キレもスタミナも、この舞台に最も適した理想の配合馬であったとも言える。
連勝馬は他にもいた。
けれども、一線級の馬が揃ったこの舞台で、器用さ以外で勝負する手段はあまり多くはない。
アルバートもトーセンレーヴも、本来は中山向きでないという結果に終わった。
マリアライトをリアファルと勘違いしていた人は多いだろうが、この馬の頑張りも凄い。
ここは素直に、気配良好も評価が妙に下がった馬の好走ではなく、GⅠ馬らしい堂々した走りでの当然の4着と評したい。
前に馬がいると普通に馬になりやすいラブリーデイの脆さと好気配ながら中山はちょっと遭わなかった感じのルージュバックなど、陣営は言いたいことはあっても勝ち馬を称えるしかない状況にあって、この日もエンジンがかからなかったゴールドシップだけは、自分の走り方について、何だか人間が急に理解してしまった事へ反抗するかのように、強い自分を見せることを躊躇っていたような感じがした。
信じてくれるのはいいけれど、ここは俺のラストステージには相応しくない。
優しいゴールドシップを見て、そのままお別れというのも、ゴールドアクターの充実ぶりの陰に隠れて、とても寂しい結末になってしまった。
あの春の天皇賞は、やはり別れの挨拶だったのだろう。