2016年有馬記念 回顧

途中から動けたのは大きかった。
サトノダイヤモンドが自在に競馬をできる流れをマルターズアポジーが作ってくれたおかげで、瞬発力勝負ではなく、総合力の叩き合いになった。
ゆっくり動かしていけば、直線はしっかり伸びてくれる。
出来がいいこと、内面を含めた総合的な意味での成長と騎手自身の好調さ。
キタサンブラックがゴール前差されたように、オッズもレース直前に入れ替わった。
至極の力比べであった。

菊花賞の時に、サトノダイヤモンドは成長していないのでは、と述べた。
明らかな間違いではあったが、恐らく、馬体の変化が必ずしも成長とは異なるのではないかと、有馬記念のパドックを見ていて思った。
揉まれる経験をした皐月賞の初黒星から、落鉄のダービーラストシーンまで、その時間は1か月と半しかない。
しかし、ダービーから菊花賞までの間は、ダービー好走即ち勝ち負けの神戸新聞杯の好走は目に見えているのでノーカウントとすると、実戦も中にはあるのに、実に4か月半余りの時間がある。

本家セントレジャーはとおの昔に廃れてしまったが、日本は奇しくも高速競馬の影響を受けてのものか、その格は未だに保たれている。
菊花賞で改めて力を証明したダイヤモンドには、勝つことによる消耗が最低限の上に、総合力の高速菊花賞の中で力を示したことは、ダービーを勝つことよりも何倍も馬に掛かるストレスが小さい。

走っているうちに、どんどん力のない馬は置き去りにされる長距離戦というのは、絶対能力が違えば、簡単に勝てるのだ。

だから、心身ともに万全の状態で出走できた菊花賞は、有馬記念の叩き台であったのである。
少なくとも、ジャパンCに力を注がなければならないキタサンブラックのような、1戦ごとに大勝負をしていく立場とは、気持ちも体力も、この時期に能力差そのものも縮まる古馬と3歳の争いで、2kgの差がついていれば、瞬発力勝負では多少はアドヴァンテージのあったサトノダイヤモンドにルメール騎手が乗っているという状況。

レイデオロを完璧にエスコートしたホープフルSを見てしまったファン心理は、否が応でも、11番買い占めに走るのが当然であった。

勝負を分けたのは、スタンド前の縦長の展開。
筆者期待のミッキークイーンも内からうまく揉まれない外目のポジションにつけ、いつでも追いかけられる位置につけたが、その時に、ペースを見て楽をして走っている1枠2頭を徹底マークにスムーズに入り、それがペースが落ち着く2角過ぎで決まったので、キレではさすがにディープには敵わない古馬コンビには、もう戦う術はなかったように思う。

内をキレイに回ってきたキタサン、ゴールドらは、経験に乏しい3歳馬を一時は離しかけたが、坂を上ってもなおダイヤモンドは、逆転可能な位置にいた。
正直、これがダメ押しだった。

マルターズアポジーの平均ペースで、それをキタサンブラックがじっくりと交わしにかかる競馬こそ、サトノダイヤモンドが鬼のような強さを見せてきた関西圏でのレース展開そのものである。
見たこともないようなタフな古牡馬をねじ伏せたダイヤモンドに、これからもっと問われるのは、本当の意味でのキレが繰り出せるか。
ダービーはその差で負けた。

春天を使うのか。ドバイに行くのか。休み明けで大阪杯なのか。
皆国内で戦うなら、春の最後に宝塚記念を目指すことになる。
実力馬が自分の走りたいように走れたのなら、意外と、その後の進展は乏しいケースが見られる有馬記念後の名馬の姿は、目先を変えることで新たな可能性をみせてきた。
大きなものを目指すもののための有馬記念。

その意味で、クリストフ・ルメールの涙は、ハーツクライ以上の可能性を見つけられた手応えがこのレースにあったことを暗示しているのかもしれない。
日本で走る必要は、しばらくはないように感じる。
有馬でいい決め手を発揮する馬に、他のGⅠを勝つチャンスは少ない。
強気の選択こそ、強者の正しい在り方だ。
今の里見オーナーが、指針を間違えるとも思えない。
とっとと渡航の手続きをしてください。