朝日杯フューチュリティステークス2015 回顧

上には上がいたということで、血統の差というか、何というか…。

先週に引き続き、今週も仁川から世界レベルの才能を発信する競馬を我々は目撃することになった。

新馬はそれなりいいメンバーが集まった中で、しかしながら、一頭軽やかにスムーズなギアチェンジをして楽に抜け出して快勝。

それから約一か月。

デイリー杯大楽勝のエアスピネルという強大な敵を相手に、10年前の春の府中を嫌でも思い出させてくれるような展開を完全再現し、時の流れを大いに体現してくれた。

いよいよ、仔の世代になったのだな…。

父は同じキングカメハメハ。

シーザリオ、エアメサイアの一つ上のダービー馬。

同じ時代を牽引したクラシックスターたちが、自分とそっくりのまさに生き写しにしたようなクラシック候補を、昨年から生まれ変わった朝日杯へ同じ年に送り込んだ。

既に天に召されているエアメサイアは、早くから武豊という手堅いカードを掌中に収めることで、クラシック路線を理想的なリズムの中で戦うことができた。

シーザリオだって、福永祐一が乗っていたのだが…。

フラワーC楽勝で、桜花賞に向かったようなところもあって、ラインクラフトとのバッティングで騎手も乗り替わり。

なのに、エアメサイアは強引なローテで挑んできたシーザリオに迫力負けしてしまう。

オークスだって、万全の抜け出しを図って、対するシーザリオは、すぐ傍にいたエアメサイアにロスのない位置取りをされてしまうことで、どんどん置かれてしまった。

この日の朝日杯。

似たような外枠をその仔たちが引き当て、エアスピネルは抜群のレースセンスで中団外目の盤石の位置取りを確保することに成功。

否、違うか。これが彼の普通の姿であることを、祖母のこともよく知る武豊は理解しているからこその無理のない位置取り。

リオンディーズは、ローテ上無理をしているのだとすれば、それは新馬からここに直行しているという点。

母の桜花賞へのローテと似ているが、距離の短縮はほとんど場合マイナスには働かない。

広い馬場のマイル戦。

デムーロも、流石に新馬戦のような好位につけて楽に抜け出すことを想定などしていなかったはずだ。

キーパーソンに若干の変化はあって、無論、母ではないあくまでそっくりな仔が一緒のレースで戦う。

「デジャヴではない点を挙げるならば…」

直線、あっさりではなく、しつこい表現にはなるが、盤石の正攻法からの抜け出しで坂の辺りで先頭に立った瞬間、相手は大外のそれも後方で異次元の伸びを可能にするもう一つ上のギアを使う準備が整って…。

あの時の3着馬は、ディアデラノビアである。

これもデジャヴ。仔息・ドレッドノータスは、後に武豊の選択肢から外されてしまうかもしれないけれど、それでもクラシックの候補なのだ。

恐ろしいほどの複製技術。そして、ディープの血は入れられないサンデー系にフィットっした種牡馬の存在感。

そう、違うのは、10年前にはサンデーの強烈な勝負強さが日本競馬の絶対的なポジションをキープする要因となっていたのに対し、今はそれ以外の血をいかに効率よく受け入れていくかの方が重要になったのだ。

そうしたら、春の牡馬二冠戦以降では、キングカメハメハとサンデー直仔は実にわかりやすい走る血統であることを証明する競馬が展開され続けることになった。

「ひ孫だから凄い」

現役古馬のチャンピオン級・ラブリーデイがいるから、別に不思議なことはないのだが、10年前の競馬界は、まださすがにサンデー直仔の方が圧倒的に強かった。

孫世代がちょうどGⅠでも通用するような時期に来て、サンデー産駒の前半期におけるチャンピオンであるスペシャルウィークが、シーザリオというとてつもないスケールの女児をターフに送り込んだのだ。

「そういう時代になったのか」

ゴール前、母と同じように、デムーロはリオンディーズの脚をこれ以上伸ばそうとはしなかった。

武豊もまた負けてしまった悔しさがあるだろうが、シーザリオの仔で、もしかすると今後もこれ以上の馬はいないだろうというリオンディーズに未だ跨ることができないでいる福永の心中はいかに。

もうすでに、クラシック戦は始まっている。

それも、心底その馬のために何ができるかを考えないといけない時期に入ったのである。

エアスピネルとシャドウアプローチとの差は4馬身。

先週と同じように、この差を埋める手段は、自身の急成長以外にない。

が、同時に、牡馬クラシックに楽な設定のコースはない。勝負付けと言うには、少なくとも上位の2頭は当たらないだろう。

東には、まだ見ぬ天才がいる。