朝日杯フューチュリティステークス2019 回顧

鬼のムーアと超少年・サリオスが、朝日杯を完勝した。

素晴らしい。1:33.0で走るイメージなど、新馬戦のゆったりモードでの勝ち上がり方からでは、全く想像はつかなかったが、堂々の実質的2歳王者に見事に輝いた。

とても完成期に程遠い、体を持て余し過ぎているこの天才は、ハーツクライの持っていた成長力が、その血脈そのものが誇る最大のアピールポイントというバックボーンを備えつつ、姉のサラキアがそうであるように、コーナーワークに手間取らないワンターンの競馬では、多少強い相手でも頑張り通してしまう、特殊性も合わせて持っている。

完成期という表現は、巧みにレースをすることを強いらない時の方が、かえっていい競馬をできる、人間が勝ち気になりすぎなければ…、という余裕が生まれてこその高確率の勝機をモノにできる、ある意味でのフロックの可能性を孕む劇的勝利も、GⅠに出てしまえば、全くないということはなくなってしまうから、これもまた、サリオスさんには適さない。

「天才が多すぎる世代」

思えば、ハーツクライの生まれた世代には、ダイワメジャーとキングカメハメハがいた。

カンパニーもスズカマンボも、マイネル軍団の大物らがゴロゴロいた04クラシック世代。

今年もそういう世代になる。

コントレイルがここに出てくるとは、そもそも誰も思っていなかったし、その前の東京でも、やけに目立つ強い馬がいっぱいいた。

それらが朝日杯という2歳のカテゴリーに収まりそうなチャンピオン競走に出てくるはずがない一方で、同じマイルだからと言っても、2度続けて1分33秒以上の時計で重賞を連勝し、無敗のまま突き抜けるというのは、もはや偉業と言える。

完成度とかそういうものは度外視してというスタンスで見れば、マルゼンスキーやグラスワンダーにも近い。

こういう時、前述の件が頭をよぎる。

グラスワンダーが一気に負かした中には、マイネルラヴもアグネスワールドもいたわけだ。

こういうレースに限って、スムーズに事が運びすぎて…。

好位抜け出しを決めた勝ち馬は別として、異次元の高性能エンジンというほどのパンチの利いた武器まではなくても、差せるのであれば、自ずと結果がついてくるタイセイビジョンのような馬に、武豊騎手はぴったりだった。

しかし、今回はかつてバブルガムフェローやフジキセキらに敗れた時と似た、どうにもならない格の差があった。

距離適性、ワンターンへの順応性、距離延長での可能性、そのいずれもが勝ち馬に劣っていたのでは、最後離されるのは仕方ない。

合っているパートナーだったからこそ、見せ場作りに止まったのかもしれない。

一方、位置取りはまるで違うが、伏兵の競馬をした3、4着馬は強力。

第二のケイアイノーテック的存在になりそうなスタートダッシュつかずの究極の帳尻合わせで3着まで追い上げたグランレイは、本命していたから言うわけではないが、謎の大物感を放っていて、返し馬で気の難しさなどを見せながら、やけに走ることに集中した時の怖さのようなものがあった。

2戦目の経験があるからこそ、追ってからのやる気全開が見られたわけだが、ルーラーシップの産駒である。

ややこしさ込みで、こういうタレントを見逃すと痛い目に遭うか。

距離適性は勝ち馬と似たようなところがありそう。

もっと驚いたのが、4着のタガノビューティー。

名前は見かけ倒しの大型牡馬は、ダート2戦快勝後、ある意味、サリオス的な能力の発揮で、内容的には中山最後の年の覇者・アジアエクスプレス以上の激闘で踏ん張った。

明らかに、勝った馬にもその前の2頭にも、スケール感で大きく見劣るなどということはない結果だが、どう見てもダート馬の体だった。

早熟性が売り物となるかよくわからない和製ヘニーヒューズなので、サリオスと同じくらいの注目度を集めることになるだろう。

面白い。朝日杯組最大の惑星は彼だろう。

でも、ホープフルSやクラシック本番には、もっと大物が沢山出てくる。

筆者は既に、グランレイの快走でお腹いっぱいである。