日本ダービー(東京優駿)2019 回顧
衝撃の走りのリオンリオン。
衝撃の逃げこみのロジャーバローズ。
今回は完璧なエスコートとなった戸崎騎手のダノンキングリー。
時計が出ることが分かっているだけではなく、レコード間違いなしの先行勢の存在があった。
積極的に位置を取れたグループに対し、じり脚のヴェロックスに最後は差し切られたサートゥルナーリア。
過酷なダービーは、3強ダービーを崩す昭和の時代によく出現した、謎の刺客・ロジャーバローズだった。
正攻法で戦うことが見えていたはずの皐月賞1、2着馬は、結局、全くうまくレースできなかったサートゥルナーリアも、考えて動きやすい中団位置をとったヴェロックスという感じで、ハイペースの凌ぎ方に傾注したということでは、間違いはなかったはず。
しかしだ…。
あの福永祐一を勝負の鬼にさせたのが、この日本が誇るダービー・東京優駿という舞台なのである。
今年のそれは、当然、昨年以上の着順を目指した戸崎圭太がその対象だった。
しかし、勝負すべき相手が後ろにいるというつもりで万全のコース取りと仕掛けであった今回、それでも敵わない何かがあったのだとすれば…。
前回の京都新聞杯で、イメージにはなかった高速決着への可能性を見出していたロジャーバローズは、3歳春に2:23.6、秋には前年の三冠馬・オルフェーヴルの心を折って2:23.1で、それぞれ東京2400Mを快勝したジェンティルドンナの近親にあたる。
当然レコードが出る馬場だから、この2:22.6に何も疑問はない。
しかし、父が走れたか、従姉弟が走れたか、今や2000M以上のレコードタイプにはつきもののヌレイエフの血を持つ馬だからといって、この時計で乗り切れたかと言われれば…。
レースは生き物だが、逃げるしかないと思ったロジャーバローズとリオンリオンが、自分の理想とする位置をとったのだから、それを自ら潰しに行かないと勝てないのだ。
どんなレースでも、可能性のある馬に有利に、そして、うまくいきすぎた馬が、勝つべきレースと皆思う前のレースで完璧だと、勝手に崩れることがある。
あの皐月賞があるから、距離が本質的に延長する舞台に適性があるヴェロックスは、きっとここまでの高速レースは得意ではないけれども、本質ではもっと楽に中距離戦をねじ伏せて勝ちたいタイプだったから、全てがうまく行かなかった今回は、見せ場を作るまでに止まるようにして、今度は競り負けた。
バテたのだ。
ここまでくると、ルメールでもうまく行かなかったと思える。
あのゴール前。
絶叫したファンは実に多かったはずだが、実は、ダノンキングリーが相手を外に求めた時に、勝負は決していたのかもしれない。
さすがに筆者もダノンが勝つと思って見ていたが、時には、番狂わせというのが大一番でこそ起きるというもの。
浜中俊という騎手の紆余曲折をみんなで見てきて、一喜一憂することも、GⅠでこそという立場にならなければいけなかった現状、まるで重賞でも縁のなかった姿に、皆が歯がゆさを覚えていた。
が、前回ロジャーバローズに乗った時の彼は、実に気を見るに敏の的確な先行策をとり、素晴らしい結果を残していた。
今回もまたインに拘った戸崎騎手も然り。
うまくはいかなかったけれども、次なる大舞台でこそ、この若馬のために全力のエスコートをしようではないか。
思い起こすことで生まれる、新時代のダービー終了後の嗜みから、筆者が感じたものはこうである。
「時計が速いと競馬は普通になる」
今までは人気馬に有利なファクターだったが、もっとタフな馬場のダービーでは、こういう信じられない馬の激走が何度もあった。
邪魔な馬が昔は多かったが、今は、時計への不安が騎手の障壁となる。
浜中、戸崎両騎手には、そういう先入観がなかった。
時計勝負だからこそ、前に行った方がいい。
昨年の秋に、それを学習したはずの多くのファンは、関係者同様、時計の魔物に立ち向かっていかねばならなくなった。
安田記念はどんなレースになってしまうのか。
あれほどの名馬が戦うのに、異常な時計が出過ぎてしまうと、やはり、少々興ざめしてしまうのも間違いない。
それだけは残念である。