ジャパンカップ2015 回顧
よく考えてみたら、カレンミロティックが行こうと思えば行けるんだなと、1角で気が付いた。
イトウの作るペースなど、こんな言い方は何だが、たかが知れているのだ。蛯名騎手は、冴えている。しかし、今日は強い馬ではなかった。
ゴール前。きっちり前を捉えきったのは、牝馬のショウナンパンドラ。秋華賞の前レコードホルダーである。
蛯名様様と思っているのは、この馬もそう、1年ぶりの復活を果たしたラストインパクト&ムーアも然り。
上手な競馬をできるラブリーデイには、ちょっと混乱した直線半ばの最高の攻防からの抜け出しで、最も不利な立場に今回はなってしまった。
調教師は認めている。2000Mがベスト。
異論はない。仕方ないことだろう。1番人気の競馬とすれば、これ以上を求めるのは酷だ。
ああ、そういえば…。
もう11年も前のこと。
秋華賞のトライアル・ローズSで早仕掛けして失敗したことを悔いていたのは、この日の勝者である池添騎手が跨るあのスイープトウショウとのレースだった。
その時負けたのは、上がり馬のレクレドール。ショウナンパンドラはその姪っ子である。
秋華賞を無事に制し、翌春には宝塚記念を快勝。エリザベス女王杯も豪脚を披露し…。
何かと疲れる馬には縁のある「牝馬の池添」は、ドリームジャーニー、オルフェーヴル兄弟への騎乗で、様々な経験を重ねることになった。
ステイゴールドの代表産駒への騎乗。
凱旋門賞とその前哨戦であるフォア賞への騎乗は叶わなかったが、オルフェーヴルがGⅠを制した時には、いつも池添謙一がいた。
また疲れ果てて、時は流れていった。
最強兄弟と同配合の二冠馬は、その有り余る才能をずるさをするために活用する方法を会得し、とんでもないことをしでかす馬へと育った。
ゴールドシップ。10着。
今回のローテには、賛否両論様々あって当然だろうし、レースぶりは至ってシンプルな後方待機策だった。
でも、捲ろうという意思は見せてくれた。
混戦向きというより、俺が通る道はなかったな、と馬が思ったら、彼は走らないのである。
6歳秋の休み明け。マイナス材料は多かったが、展開一つだったと思う。
3年前。オルフェーヴルは、JCで大外枠を引いてしまった。でも、ほとんど同じような枠に入ったジェンティルドンナに、最後は己がまっすぐ走らなかった(走れなかった)影響もあり、当然何度となく馬体を接触させ、走る以外のことに気を取られるような格好で競り負けた。
悔しさの方が大きかったのだろう。こんなはずでは。
でも、そんなような競馬をして、凱旋門賞で最後内にモタれて負けていたのだから、織り込み済みでなければおかしかったわけで、それが敗因になったことは必然だったのだ。
因縁深いステイゴールド一族の牝馬に、池添謙一。
秋の天皇賞と同じ枠。
「神様から与えられた試練」
それひとつだけが、彼に課せられた試練ではなかったはず。
失敗の積み重ねから得た経験値は、大一番での僅かな差を決する十分なアドヴァンテージとなった。
インを強襲するスタイルは、ムーアの十八番。ショウナンパンドラも春まではそうだった。
しかし、様々な差し・追い込みタイプを自分の馬にしてきた池添騎手にとって、仕掛けていく馬が多いこの競馬は、少し自分に有利に働くのではと、出馬表を見ながら作戦を練り上げていたのだと思う。
3角8番手、4角11番手。
鞍上の思惑通り、彼女は弾けるように伸びた。
オールカマーで完全に手のうちに入れた彼女の個性を掴むのには、10年余の時間がかかった。
静かに喜びを噛みしめるようなインタビューから、名手の誇りが滲み出ていた。
間違いなく、彼の技術がこの35回ジャパンCの質を高めたのだ。こんなことがあってもいい。
元祖国際競走の看板は、この日とても輝いて見えた。