マイルチャンピオンシップ2015 回顧
思わぬスタートだったのは、2年連続で秋の天皇賞の外枠スタートの憂き目に遭ったイスラボニータの方だった。
ズルッとした、という表現がいいかどうか、立ち遅れといった雰囲気で痛いコケ方をしてしまった。
スタートが普通だったのはモーリス。
どう考えても、メンバー中で真ん中よりちょっと下くらいの8分程度の仕上げではあったが…。
加えて、直前の一頓挫と輸送時に思わぬ罠が待ち構えていたりもして…。
-2kg。
レッツゴードンキが逃げればスローとはわかっていたが、47秒台の半マイル通過は、時々ある、とんでもないわけじゃないけど遅すぎやしないかという流れ。
返し馬から、いや、京都競馬場に着いたときからきっとボーっとしていたのかもしれないモーリスを、終始鞍上が穏やかな対応でエスコートしてあげたおかげで、下り坂にかかった辺りでも、変に行きたがることもなく折り合えた。
勝ったな。イスラボニータが、後方のインから直線でも大外持ち出しなど到底不可能な展開であったから、危ない橋を渡った筆者等のモーリス党は、一瞬内に刺さってドキリとした以外、直線の攻防は思った通りになったのである。
名手R.ムーア。
後に続いた騎手も、ヨーロッパで実績を残し、日本のGⅠももちろん勝ったことのある騎手ばかり。
しかし、今回に関しては、今のムーアであれば、素直に出来万全でなくもGⅠを楽勝してしまったモーリスの能力を、ただただ称賛することであろう。
自身は、2週目に入っても不遇続き。
直前の9Rでは、断然人気の馬を絶好位につけさせ、盤石の直線抜け出しを決めようと目論んでいたところ、最終コーナーでズルズル後退し、直線は追えないくらいの勝負圏外にまで下がっていってしまった。
うまく乗ろうとした時に限って、いや、うまく乗っているにも関わらず馬がそれに応えてくれない…。
「大丈夫かな」
さすがのスーパージョッキーでも、休み明けのモーリス、それも過去キャリア中で最大の失態を演じた際のモーリスの背中には、彼が乗っていたのだ。
でも、その悪運というか負のスパイラルは、先週の主役になった蛯名騎手が一人で持って行ってくれた。
中山で過激なまでのハイパフォーマンスを見せた時、この馬をデビューの頃から知っている者であろうとなかろうと、正攻法ではどうにも太刀打ちできないと感じさせるような走りを見せてくれた。
3歳の頃までは、過剰なほどの支持を集めていたモーリスは、住まう家を変えてもらい、またレースに挑む過程にも変化が加わったことで、京都芝1400Mの新馬戦における不滅のレコードを叩き出した当時の自分をしっかりと取り戻せたのだ。
人間も素晴らしいし、何より、馬の持つ気高い性質が、こんな厳しい条件に置かれても、春のように誰よりも速く走ることができた要因となったのである。
この日の上がり3Fは33.1秒。
デュランダルは4回挑んだこのレースで、最高がラストランの33.2秒だった。
ペースこそ違えど、極限の脚をここぞの場面で繰り出し、他を制圧するモーリスという馬は、京王杯2歳S単勝1.5倍の支持に相応しい才能の持ち主だったのだ。
だから、誰もあの時考えたことは間違っていなかったのである。
ただ、相手がいて、自分自身も未熟で、というだけのこと。
サトノアラジンが外から猛追してきたことには少しびっくりした部分もあるが、とてもじゃないけど勝負ならないところから前を追い詰めたイスラボニータも強かった。
それを封じたフィエロも良かったが、M.デムーロが、ゴール前外を見やった瞬間の表情が忘れられない。
「なんだこいつは」
堀厩舎には、世界を動かす才能がもう一頭いる。
やっと、競馬が盛り上がってきた。