エリザベス女王杯2019 回顧
オークスの時に、アーモンドアイとのあまりに対照的な体の作りに、本命に推した筆者自身、自信を失った。
これはマイラーになってしまったんだな。
秋華賞は理想通りにうまく使えず、中山記念のハードな流れを真っ向勝負で有力牡馬に対して受けて立ったのは2月の末。
あれから、もう季節がいくつか巡った。
この日のラッキーライラックは、筆者がオークスで期待した血統のイメージ通りの、大きな作りでもスマートに見せる牝馬らしいすらっとしたフォルム。
それは当然、元が小さいクロコスミアやクロノジェネシス、本来はキレ馬らしくスマートな体形のスカーレットカラーなどとは、血統的な理由と相まって、本質的に別の馬の作りとなるわけだが、これなら決め手を活かせる、2歳女王になった時のラッキーライラックに戻るのではないかと期待させるものがあった。
スミヨンは内に入れた。
-4kgの発表以上に内面から肉体に変化が起きたかのような激変に、きっと、距離に対する不安なども耳にしていたのだろう。
いつもの、最近のラッキーライラックだったら、もうそれでアウト。
中山記念とはあまりにも違う超スローの展開。
不滅の同一GⅠ3年連続2着の偉業を果たしたステイゴールド産駒のクロコスミアの内を割ってというか、見事に開いた内から父オルフェーヴルが復活を遂げたあの宝塚記念の時と同じような進路で、ラッキーライラックが最後に顔を出した。
他のみんなも一生懸命に走っている。
一瞬の脚が身上のスカーレットカラーも、やや体重のコントロールが利かないという感じで激増で、距離不安も影響して、見せ場作りに止まった。
それより何より、上手に競馬をすることに執念を燃やしたラヴズオンリーユーなど、本来はもっと増えてもいいというフォルムも、その姿を凝視すればするほど、伸びしろがまだある分、この馬体では持て余してしまうのではという中で、中身の濃い番手抜け出しで3着。
普通の馬ではこれはできたとしても、最後は失速である。
スローだからこそ、本質が出る。新馬戦と同じ理屈。
厳しいレースを経験したのは良かった。
ただ、彼女の今後のハイスペックなパフォーマンスは、やはり、自身の脚元への不安と表裏一体となっていくのであろう。
クロノジェネシスだって、見せ場作りに止まったが、ちゃんと掲示板に載っている。
人気馬はみんな走っているからこそ、ラッキーライラックの快走には価値がある。
誰よりもスムーズにインを伸びてきたとはいえ、誰も見たことのない彼女の姿だった。
スミヨン騎手の面目躍如となる勝利であったと同時に、そこはオルフェーヴルの仔、ステイゴールドという馬の血がいかに豊かな可能性を秘めているのか、改めて勉強させてもらった。
オルフェーヴルにはノーザンテーストの血が2本。
その4×3が掛かっている。
エリザベス女王杯をその産駒が勝ったことはなかったが、20年前のこのレースで輝いていたのは、その孫にあたるメジロドーベル。
その直系が勝ったわけではないから、連綿と続くブラッドストーリーとは成りえないが、2000M以上の競馬で連対していない馬が、GⅠ馬だからという理由でこのレースを勝つというのは、異例中の異例。
距離適性も今までの戦法も全て覆せたのは、そうした血統の背景があってのことだろう。
石橋騎手に手が戻るかはわからないが、もし次に乗った時、彼女の乗り味は全く違っているはずだ。
直線のあの脚は、アーモンドアイの決め手である。
ポンデザールは…。
時計を持っていなかったから歓迎のスローでも、緩急がつきすぎると、牝馬のGⅠでは厳しかった。まだ先は長い。