秋華賞2017 回顧

動くタイミングが絶妙だったのは、本当はモズカッチャンだったはず。

前にアエロリット、ファンディーナを置く競馬は理想で、トータルの時計が速くならないことが読めるような厳しい馬場状態で、それを潰してしまえばという考えは、前回うまくいかなかった分を取り返したかったデムーロ騎手としても、彼女の持ち味を出し切るには十分の好条件であった。

しかし、買いたい馬がいないのではなく、それが多すぎるためにオッズが割れたようなところのある今年の秋華賞は、それらが主役にならなくても、まだまだ役者がいた。

それぞれが、いい馬にいい騎手という組み合わせだったのだ。

前回はやや強引ながら、この後の多頭数の競馬を力でねじ伏せる形を早めに体得させるようにして、伏兵の内残りを封じ込めた紫苑Sの内容を高く評価されていたディアドラは、最後ガス欠の2頭に続く3番手評価。

ここでテン乗りでいい馬を駆ることになった失意のルメール騎手を、評価が分かれるところになった連続のプラス12kgで、人によってはムチムチすぎるグラマラス女子高生と見て、直前買い派のファンがやや手控えた中での人気落ちの側面もあったが…。

現に、例年の似たようなハイレベルの展開で時計勝負になれば、全然勝負にならないような後方待機、いや、うまく回ってこられたけれども、キビキビ動いて行けるようなタイプではないことで、ギリギリ届くかどうかの馬群の後ろ目のところから、最後は怒涛の追い込みで抜け出したのだから、完全に道悪の馬場を味方につけられたことは間違いない。

軽い馬場に対応できるような馬ではなかったのだろうが、誰よりも一生懸命に走って、同時に勝ちに飢える最も切ない敗戦を重ねてきたディアドラだからこそ、このタフなレースを勝ち切れたのだろう。

オーソドックスに中団から差すことを選択したリスグラシューも、相手がスピード優先で、自分も途中で脚を使わされたことでハナ差交わされることとなったモズカッチャンより強かに立ち回ったことで、いつもと大差はないが、一番この馬場に適性を感じさせる内容で2着を確保。

名手たちがそれぞれ選択した戦法は、結果、この着順となった出たわけだが、それは上位人気2頭の横山、岩田騎手とて、決して責められるものではない。

ミルコがいい仕掛けで仕事をしたが、良馬場ではないから、最後はリズムが狂ったというだけのこと。

ミルコが勝ちに出た恩恵はルメール、武らが受け、あとの15組は勝負のチャンスを奪われたというのが真実だろう。

アエロリットは道悪が苦手だったとしても、外からのプレッシャーを恐れずに、自分から先行する意思を示せば、ある程度の死角はカバーできたはずだ。

ただ、馬場と差し馬の力関係を考え、まずは先行馬を自ら潰すのがファンディーナとためだという岩田騎手の思いが見える積極策もあり、横山騎手の「行く手もあったが、壁を作れるなら、それがベスト」という本質面での課題をクリアするには、危うい気性を抑え込むにはリスクを負ってでも、快調に飛ばすカワキタエンカを途中から潰しにかかる、本来の彼女の競馬に徹するしか、もう選択肢はなかったのだ。

こうなってしまうと、スピードで強引に押し切ることも、同時に後続を翻弄することもできない。

本当は良馬場で…、という願いも叶わず、調子が良すぎて行く気満々の状態は、昨年の関東馬壊滅の秋の京都と同じような展開になってしまった。

クリアできる大きすぎない壁であったはずが、史上初の本格的な重馬場の秋華賞により、最も負けているディアドラに凱歌があるなど、何とも皮肉なものだ。

挑戦する意思は正しかったが、1番人気で【0200】、2番人気で【3000】というこれまでの結果に、距離不安もプラスされたことで、何だか一番割を食ってしまったことが、面白いレースの中で唯一、とても残念であった。

初の非1番人気だったファンディーナ共々、梅雨時にも似たこの雨を、誰よりも恨めしく思った陣営の気持ちは、きっと筆者と同じものであったはずだ。