スプリンターズステークス2016 回顧
絶対に揉まれることはないだろう橙と桃の帽子が1、2着。
もしかすると、中山だからこういう波乱の可能性を秘めていたのではなく、中山の馬場がまず軽い作りにはならないと、昨年の秋に皆が確信したときから、この結果は見えていたのかもしれない。
こういう時は、まずは勝った馬を称えるしかない。
33.4-34.2の前後半ラップは、皆が想像したような水準の展開によってもたらされる結果的なものであって、意外なスローではない。
よって、前回芝の走り方をレースの途中から思い出し、そこでM.デムーロが鞍上だったことを味方にCBC賞を半ば強引に勝ち切ってしまうと、やや過剰気味に映った3番人気の評価に違わぬ、ほぼ正攻法の外々追走からの抜け出しで、初GⅠ、初の休み明けの重賞出走、初の中山のスプリント戦出走などの不安要素を全て、人気のビッグアーサーに背負ってもらい、おまけに、GⅠ馬・ミッキーアイルの先導というわかりやすい目標を得て、あくまでも結果的にだが、レッドファルクスはCBC賞を再現して見せた。
思えば、スティンガーの甥っ子。
芝の短距離で軽い馬を多く出すスウェプトオーヴァーボードが、スティンガーの決め手を少しでも得られたのなら、展開一つでというものは、ファンの穴狙いの心理と今回は見事に合致した。
久しく目立った活躍を見せていたなったデムーロ騎手だが、日曜日はレース前まで2勝していた。
2歳の500万下でややヘグったのは、本番で単穴をあける使命を受けたレッドファルクスへの騎乗を考えたら、むしろ、一発狙いのために良かった側面もあった。
それも結果論ではあろうが。
休み明けで、気持ち絶好調前の状態での出走となったミッキーアイルは、スローを見切ったかのように先行策を選択したソルヴェイグの田辺騎手をうまく利用して、ゆっくり先手を奪うことに成功。
ソルヴェイグが、内を通らされて窮することを嫌ったビッグアーサーの福永騎手の心理を大いに動揺させる、フェアな進路カットもあり、全体の流れを牛耳ったこの2頭は、自分たちの理想に近いレースで、それぞれが2、3着に粘った。
当たり前である。
ミッキーアイルは高松宮記念では、約33秒を切るか切らないかの前半の流れから、ビッグアーサーと0.1秒差の1:06.8で2着している。休み明けを加味しても、それは楽な流れであった。
ソルヴェイグだって、前々走は今回と同じくらいの流れで先行して、粘り切って勝ち切っている。
上位に来たグループは、このくらいの流れで自在の競馬をできる馬たちだった。
無論、ビッグアーサーが複雑な進路選択を50M進む毎にせねばならなかった影響もあったのは間違いない。
ただ、全体の時計は、高速馬場でも1分7秒前後だったことを踏まえれば、普通に流れてもそれより時計半分増したくらいの想定は、皆出来ていたはず。
だから、有力馬で対応しきれなかったのは、大型馬の不器用さを丸出しにしたビッグアーサーだけだったのである。
悲しいかな、逃げ勝ってしまった前回のことがあって、今回はその時我慢した分まで余計に批判を上乗せされてしまうのは、福永騎手にとっても気の毒なのだが、敢えてそれでも苦言を呈するならば、3角過ぎからもっと外に張っていく勇気があってもよかったのでは、という点だろうか。
不器用さを理解して、それなら総合力の再確認の意味で、あえて、ストレス解消も狙った逃げの手を、内枠を引いた時点で選んだ前回とは違い、内枠の不利と、思わぬ存在だっただろうソルヴェイグの積極策により、4角過ぎに内をつくことを決心した後、明らかに後手後手の進路選択にハマっていく結果になってしまった。
恐らく、もっと流れていれば、うちも開いて、何なら4角先頭くらいで、あとは独走だったのかもしれない。
しかし、相手は15頭いる。
悔しくて仕方ないだろうが、誰が通っても負ける方向に入ってしまったので、これは一流騎手としてはミステイクである。
ファンの評価は正しかった。
しかし、ファン評価通り、9月の中央場所の重賞は全て1番人気が勝ってきていたのだが、GⅠというのは、多少の勝負運もなければならないということなのだろう。
初中山、内枠、断然人気。これは、中山の内回りを使うGⅠでも、なかなかに怪しい存在である。
50回もやっていれば、そんな年もある。
人気薄にもチャンスがなければ、競馬は廃れてしまう。
人気馬には受難の秋となってしまうのだろうか。そこは少し気になる。