天皇賞(春)2017 回顧

歴史に残るようなハイペースを作ったヤマカツライデン。

それを離れた2番手で、いつ自分の出番になるかと分かっているかのように上がっていったキタサン&武豊と、今年こそは勝てそうな気配で順調に使われてきたシュヴァルグラン。

レースの流れを牛耳ったのは、全て5歳馬だった。

内枠からのスタートは買い目ということで、かなり人気を集めることになったシャケトラは、3角下りに入る位置取り争いの後、かなりの行きっぷりで折り合うまで苦労した。

秋天でも見習ってほしいというような超ハイペースで、キタサンブラックの位置でも推定1000M60秒そこそこの流れで掛かってしまっては、どうにもならない。

外枠ということが、直前のレースになればなるほど、大きな死角になるとされたサトノダイヤモンドは、追い上げることには負担の大きくない中団待機策は、あまりにも速いこの流れであれば、普通は勝ったも同然なのだが、キャリアというより、守備範囲の中にあるスピード勝負での優位性は、この展開では活かせなかった。

昨年の春の天皇賞は、決して、ハイレベルではなかったされたが、冗談じゃないと言わんばかりの、1、3着によるワンツーであった。

もっと、平均的な時計の勝負であれば、恐らく、シュヴァルグランくらいは交わせたはずである。

勝負を分けたポイントも何も、スタートからスムーズに、昨年より出していかなかったのに、細かいラップではほとんど昨年の比ではないハイレベルの超先行力を見せたキタサンブラックと、それを恐れることはないと誰よりも知っている武豊騎手のリズムが、普通の長距離戦に対応するように作られてきた他の馬には、どうにも崩すことができなかったことにある。

この流れで、余程のことをしない限り楽なポジションなどない展開では、勝負勘と経験値の多さが結果に大きな影響与えることはよくある話だ。

その点で、日本競馬の根幹を成す競馬を全て知っているキタサンブラックと、その全てを色々なパターンで勝っている武豊が、このレースにおける最強コンビでないはずがない。

もはや、ディープインパクトの禁断のレコードは過去の話。

あれはスローペースから、強烈な決め手で突き抜けた直線での爆発力の出方が数字に反映されただけのものであり、今回のレコードは、日本競馬史上に残る金字塔である。

かつて、大井のダート2000Mを2分そこそこで逃げ切ったスマートファルコンに乗っていたのは、何を隠そう武豊騎手である。

人間の知らない世界を教えてくれる、誘ってくれるこの人を、腕が落ちただ、らしくないなどと見下した言い方をしていると、こういう目玉が飛び出るような新世界を、皆の共有財産にしてくれる。

それをいとも簡単にやってのけることを、口惜しいと思うのは勝手だが、それができる人は大分限られる。

すでに何度もGⅠで複数回好勝負をしている馬だけの争いになったが、こういう普通ではない展開では、必ずしも能力通りの結果になるとは限らない。

ただ、今回だけは、1番人気馬がディープインパクト以来勝利したように、長距離実績に対する正確な能力判断が可能だったから、時計勝負で崩れることは有り得なかったというだけのこと。

コース取り云々は2、3着の入れ替わりには影響するが、サトノダイヤモンドが脚を余したなどと誰も言うことはないはずだ。

ジャパンCを逃げ切った馬が相手である。

先行馬の有利な馬場ではあったが、差し馬がらしさを出すにはあまりにも過酷な追撃が必要だったわけで、キレる差し馬は今回全滅だった。

展望は開けた。

この距離は長いと、有力候補ながら大分下手に出たサトノ陣営が、この敗戦を完敗だと認めたところで、目標は変わらないはずだ。

多少は馬の作り方を変えるというだけで、変化がありすぎても、今度はまた掛かること以外の課題が生じかねない。

小回りの宝塚など使わない方がいいと思うが、今の出来なら、適距離の底力勝負は大歓迎だろう。

距離は長い方がいいという馬だったキタサンは、ずっと死角であった持ち時計の課題を、満点の回答でクリアした。

ローテ通りに宝塚を使った方が、後の仕上げは楽だろうが、レース間隔にさえ囚われなければ、別にアイリッシュチャンピオンを叩いても面白い。

この馬は意外と、2000M近辺では血統の字面通りに時計勝負歓迎である。

菊花賞馬より秋天好走馬の方が信用できるところのある春の天皇賞は、時に、2400Mよりもスタミナ勝負にならないことも多い。

今年それは当たらないが、スピード馬としての挑戦は、近年の高速決着の多い凱旋門賞で、意義あるものになる。

掲示板の5頭は「ディープ超え」を果たしたが、関東の不発弾と化しているディーマジェスティとゴールドアクターは、それと同格程度の時計で駆け抜けた。

復活の糸口くらいは掴めただろう。

共に、春天に縁のある名手が乗っていたから、いいものを引き出した部分もある。

これも期待だ。