ヴィクトリアマイル2016 回顧

二度あることは三度ある。

勝った翌年は、なぜか人気が落ちる不穏な現象が毎度毎度起こっているのだが、今回もまた、であった。

藤原調教師とオーナーサイドの決断は吉と出た。

7歳春。東京のマイルは、単純に若い馬には有利とはならない。

11年目にして、超高齢領域に入った馬の勝利。

レースレコードであり、歴戦の名牝を子供扱いしたストレイトガールは、かつて、そこにエリザベス女王杯があるから、と言わしめた、京都2200Mをこよなく愛したアイアンフィリー・スノーフェアリーと同じく、このレースのマイスターとして、今後とも日本競馬の歴史に燦然と、その蹄跡を刻み込んだ。

7歳のブラックホークが一変した01年から、アドマイヤコジーン、アグネスデジタル、ツルマルボーイ…、6、7歳馬が都合7連勝したという珍妙な記録を持つ安田記念になぞられるように、このヴィクトリアマイルも創設8年目のヴィルシーナ初戴冠の時までは4歳馬圧倒的優勢であったのが、そのヴィルシーナの連覇から、今度は5、6、7歳馬が勝利。

「高速化と極端な前残り」

理由を求めるとしたら、これしかない。

日本競馬の歴史は、もうそれなりに積み上げられたものであるから、いろいろなデータがあるのだが、このレースのレコードを持っていたアパパネ、その前のレコードを記録したウオッカと、同タイムで勝った記録を持つブエナビスタらは、皆が、東京2400MのGⅠを勝っている。

が、その後、このレースのレコードを更新したのは、明らかにスピード優先のストレイトガール。

まあ、スプリンターズSを勝つくらいの馬だから、本質はスプリンターでも、2年続けて、前記した超名牝らの時計を、6、7歳で上回って見せたストレイトガールは、完全なるマイスターであると同時に、完全にマイラーではない馬の競馬をしたということになる。

どんなに強いマイラーでも、自分の時計の限界を更新することは容易ではない。

「限界へのアプローチの仕方が変質した」

ホエールキャプチャが、3年続けて好走したのは記憶に新しい。

彼女の各年の走破時計が、

「1:32.4-1:32.4-1:32.4」

桜花賞も好走したような馬が、6歳春になっても、限定戦ながらGⅠで通用した理由は明白だ。

これが完全なるマイラー・前マイスターの足跡。

それが、ストレイトガールとなると、

「1:32.4-1:31.9-1:31.5」

なのである。

もはや、スプリントGⅠへの適応力のアップとリンクしているようにしか思えない。

速くなるマイラーはいないから、これは、牝馬としては特殊な条件であるこのヴィクトリアマイルのコースに、異常なほどの適性があるということだ。

上がりの脚も全て33秒台前半。

馬場が合うということ以前に、彼女にとってのパラダイスが、このレースの平均ラップにあるということか。

半マイルの記録は、

「46.2-45.5-45.7」

違う。彼女の平均ペースは、スプリンターの指標であるべきだ。

スプリンターズSの4F目のレースラップが、

「45.6-45.3」

唯一、ここで連を外したのは、時計を自ら作り出せず、窮屈な競馬を強いられた14年のこのレースの3着時のみ。

言わずもがな、自分のレースではなかった。

こういう特殊な馬が相手、ヘイローの直系同士の3×4のインブリードであるこの馬に対し、どんなタイトルも武器にはならなかった。

彼女が強かったことで、5番人気休み明けだったクイーンズリング以外の上位人気馬が、仲良く人気通りにゴールしている。

みんなで言おう。

「お姉さん、強すぎるよ」

ストレイトガールは、来年こそはお母さんになる。

凄まじい記録を残してターフを去る彼女と見送りながら、我々は来年、また違うメンバーの集うヴィクトリアマイルと対峙することになった。